京美ちゃんの家出

京美ちゃんの家出―ミルキーピア物語 (ハヤカワ文庫JA)

京美ちゃんの家出―ミルキーピア物語 (ハヤカワ文庫JA)

第一話は表題作の「京美ちゃんの家出」。システムハウス・ミルキーピアの人気商品、ネット上で稼働する「スーパー疑似人格ソフトアイドル」の京美が突然家出をした。ヨネコ社長の泣き落としで、片山秀人が特技のネットワーク潜りをやらされる羽目になる。ネット世界で出くわすピンクのカバやワイヤーフレームの焼き芋に翻弄されながら、ネットの世界で京美を探す。

第二話は「聖哉くん、誘拐!」。今度は女の子向けに開発した「聖哉くん」が誘拐される。新人SEの鳴琳(めいりん)と一緒に犯人との取り引きに向かう。

第三話は「フェスティバルキャラの逆襲」。ビジネス展のイベントでデモンストレーション中の秘書ソフト「直美ちゃん」が暴走。雲隠れした直美ちゃんを探しにまたまたネットに潜る。

電脳空間が舞台だとウィリアム・ギブスンみたいな世界を思い浮かべるけど、そのハードな描写とは一線を画す世界観。なにしろ、ジャックインしてアクセスするんじゃなくて、電脳キャップをかぶって「はいれはいれはいれはいれ」と念じると入ってしまう。しかも主人公は二十代後半の技術屋で、ネット空間を走り回るのに体力がついていかずヒイヒイ言ってるし、ブタの蚊取り線香ならぬバグ取り線香なんてものも出てくる。他にもユーモラスなキャラクターが入り乱れていて中々楽しい。ほのぼのサイバーパンクと言った所か。

現実世界の方でも社長のヨネコ、経理の麻矢さんなど一癖あるキャラクターが魅力的。ただ、もう少しキャラクター同士の人間関係を掘り下げた方が良かった。このへんは続編に回されてるんだろうか。

それから、コミカルな表紙と挿絵に味があって良い。世界観に合っているし、デフォルメされてるけど人物の特徴も良く出てる。B+。